生活保護問題:借金があっても生活保護を受けられる?生活保護費を借金返済に使える?
答え:「借金=生活保護を受けられない」ではないが、原則保護費で借金返済はできません。

生活保護と借金の関係については多くの間違った情報が出回っています。ここでは厚生労働省の情報と、生活保護の窓口である福祉事務所への調査結果をもとに正確な解説をします。

1.そもそも生活保護制度とは?

生活保護制度とは、お金が無く生活が苦しい人に対し最低限の生活ができるだけのお金を国が給付する制度です。生活保護受給者数は1995年の88万人から毎年増え続け、2014年には210万人となっています。厚生労働省 被保護者調査より

生活保護制度は、生活に困窮(こんきゅう)する方に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的としています。

そして、生活保護は世帯に対して給付されます。いくら個人的にお金が無くても、同居する家族に十分な収入があれば「最低限の生活はできる」と判断され生活保護は適用されません。

1-1.生活保護を受給するための4つの条件

生活保護を受給するには4つの条件があります。

  1. 財産をほとんど持っていない
  2. 援助してくれる親族や身内がいない
  3. 収入がない、もしくは収入が少ない
  4. 収入が最低生活費を下回っている

生活に利用していない土地や家、車などの財産はお金に換えて生活費に充ててください。援助してくれる親族や身内がいれば助けてもらってください。仕事ができるのであれば仕事してください。それでも最低生活費を収入が下回っていれば生活保護を適用します。ということです。

生活保護受給額の概要:
最低生活費 – 収入(世帯全体) = 生活保護費

1-2.最低生活費の計算方法

最低生活費には、都会と田舎の物価の違い、家族構成、年齢、介護や医療を必要性など様々な要素が関係してきます。そのため最低生活費の計算方法はとても複雑でわかりづらく、さすがお役所仕事と言ったところです。

最低生活費とは
お住まいの地域、世帯の人数、年齢、母子家庭、介護、教育、医療をもとに厚生労働大臣が定める基準で最低限度生活できる生活費。お住まいの地域の級地を確認生活保護費の計算式

残念ながら私の頭では「生活保護費の計算式」は理解不能でした。わかりやすいように次で生活保護受給例を紹介しています。詳しく確認したい方はお住まいの地域の福祉事務所へ相談が必要です。

生活保護給付額例  東京都 地方
標準3人世帯
(33歳、29歳、4歳)
167,170円 130,680円
母子世帯
(30歳、4歳、2歳)
157,800円 125,670円
高齢者単身世帯
(68歳)
80,820円 62,640円
高齢者夫婦世帯
(68歳、65歳)
121,940円 94,500円

2.生活保護と借金の関係

金銭面で生活が苦しい人に最低限の生活を保障する生活保護制度ですが、借金で生活苦に陥る人も同じ立場として扱われるのでしょうか?ここからは、生活保護と借金の関係について解説します。

2-1.借金がある場合、生活保護を受けられないの?

福祉事務所の回答:借金があっても生活保護を受けられないわけではないが、債務整理をしてもらいます。

生活保護法には「誰でも平等に保護を受けることができる」とあり、借金に関する記載は一切ありません。

参考:生活保護法第二条 すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。

しかし、生活保護はあくまで最低限の生活支援であり、借金を返済する制度ではありません。そのため、基本的には福祉事務所から債務整理をすすめられます。

福祉事務所が相談にのってくれるので、借金の状況も含め、隠さずすべて正直に話してください。また、債務整理を拒否することもできますが生活保護の申請が通らない恐れがあります。

2-2.生活保護費で借金返済はしてはいけないの?

福祉事務所の回答:原則、生活保護費で借金返済してはいけません。

厚生労働省「生活保護制度に関するQ&A」には、保護費は住宅ローンの返済に充ててはならないとはっきり記載されています。生活保護費で借金を返済することはできません。

「生活保護法に借金の記載が無いので大丈夫」という情報は間違えです

しかし、自己破産は借金がゼロになり返済がなくなりますが、任意整理や個人再生は減額されるものの借金返済は残ります。これでは「2-1」と「2-2」で矛盾してしまいます。

ここで「原則」という言葉が出てきます。

これは極端な例ですが、借金が5万円ある生活困窮者が相談に訪れた場合、5万円のために債務整理をしてもメリットはありません。むしろ債務整理費用の方が高くつくので「例外」として生活保護費で借金返済を認められる可能性があります。

生活保護はあくまで「生活できるようになるまで手助けするしくみ」なので、福祉事務所は借金の状況に応じ、柔軟な考えを持っています。

2-3.生活保護受給中に新たに借金してもいい?

福祉事務所の回答:貸付を受けた場合は、収入とみなし保護は廃止または停止になります。

基本的には自分から役所に言わなければバレることはありませんし、禁止する法律などもありません。ですが、生活保護受給中に借金は絶対に止めてください

たとえ生活保護が廃止/停止にならなくても、借金も収入になるため借金した分だけ受給額が減額されます。これでは借り入れの意味はありませんし、利息を考えれば赤字です。

最低生活費15万円で借金10万円した場合:15万円 – 10万円 = 受給額5万円

なにより、新規の借金をすれば元の借金地獄に逆戻りです。

3.生活保護費の不正受給による罰則

実は、生活保護を受給するまでは虚偽の申請がないか厳しく調査されますが、一度申請が通れば定期的に銀行口座をチェックされる程度です。

そのため、現金でのやりとりの借金であれば、調査すらされないのでバレないと思います。

ただし「みんなやってそうだし、不正がバレなければいいのでは…?」と考える人もいるかもしれませんが、生活保護費不正受給の厳しい罰則を知れば考えが変わります。

不正受給の罰則

  1. 過失による不正受給:厳重注意、不正受給分返納
  2. 故意による不正受給:保護廃止の可能性あり、不正受給分の140%を返納
  3. 悪質な故意による不正受給:保護廃止処分、不正受給分の140%を返納、詐欺罪で実刑もあり

このまま不正受給者が増え続ければ罰則の強化も考えられます。

メモ:2000年の生活保護不正受給は25,355件(128億7425万円)あり、年々上昇傾向にあります。世間の批判も高まり、国として不正受給者に対し厳しい対応を強いられています。日本弁護士連合会 生活保護制度統計より

4.まとめ

  • 借金があっても生活保護を受けられるが債務整理させられる
  • 原則、生活保護費を借金返済に充てることはできない(例外あり)
  • 生活保護受給中の借金は、生活保護の廃止/停止になる
  • 罰則を考えれば不正受給にメリットは無い